企業を立ち上げるとき、経営の土台となる理念が欠かせません。ミッションステートメントや企業バリューに加えて、組織の未来を描くビジョンステートメントが必要です。
ビジョンステートメントは、社員に活力を与え、投資家の信頼を得て、顧客の共感を引き出す役割を果たします。企業の未来像と社会への貢献を明文化することで、組織全体が同じ方向に進む指針となります。
この記事では、ビジョンステートメントの定義から作り方、そして世界的に知られる企業の実例まで、わかりやすく解説します。
ビジョンステートメントとは、企業が長期的に目指す理想の姿と、社会に与えたい影響を簡潔にまとめた宣言文です。「ステートメント」は英語で「声明」や「宣言」を意味し、企業の意志を社内外に伝える文書として使われます。
ミッションステートメントが「今、何をしているか」を示すのに対し、ビジョンステートメントは「将来、どのような世界を実現したいか」を示します。両者は補完関係にあり、どちらも経営の土台として重要です。
ビジョンステートメントとミッションステートメントは混同されがちですが、役割が異なります。以下の表で違いを整理します。
ビジョンステートメント | ミッションステートメント |
企業が目指す将来像を描く | 企業が現在行っていることを説明する |
未来志向の理想や抱負 | 現在の事業活動や提供価値 |
「何を達成したいか?」に答える | 「何を、どのように、なぜ行うか?」に答える |
長期的な方向性を示す | 日々の意思決定の指針となる |
たとえば、ある食品企業のミッションが「安全でおいしい食品を届けること」であれば、ビジョンは「すべての家庭に健康的な食卓を届ける世界をつくること」になります。ミッションは現在の活動、ビジョンは未来の理想像です。
日本の企業経営では、ミッション・ビジョン・バリュー (MVV) を一体として策定するフレームワークが広く浸透しています。MVV は企業の経営理念体系を構成する 3 つの要素です。
ミッション: 企業の存在意義と果たすべき使命
ビジョン: 将来実現したい理想の姿
バリュー: 組織が大切にする価値観や行動指針
この 3 つが一貫していることで、社員の行動指針が明確になり、組織文化の醸成にもつながります。ビジョンステートメントを策定する際は、ミッションやバリューとの整合性を意識することが重要です。
優れたビジョンステートメントは、組織の全員に「どこに向かっているのか」を明確に伝えます。「なぜこの仕事をしているのか」「一緒に何を築いているのか」という根本的な問いに答える役割を果たします。
ビジョンステートメントが重要な理由は、主に 4 つあります。
方向性を示す: 明確なビジョンは戦略策定の羅針盤となり、組織全体が同じ目標に向かって進むための軸となります。
チームを鼓舞する: 社員が自分の仕事の意義を実感でき、変化や困難な状況でも集中力を維持できます。
人材を引きつける: 共感できるビジョンを持つ企業には、同じ志を持つ優秀な人材が集まります。
意思決定を統一する: 全員がビジョンを理解していれば、現場レベルでも企業の目標に沿った判断ができるようになります。
ビジョンステートメントの形式や長さは企業によってさまざまです。しかし、優れたビジョンステートメントには共通する特徴があります。
ビジョンステートメントの目的は、社員、投資家、顧客に「この企業の未来に関わりたい」と思わせることです。理想の未来に向けた情熱を感じさせる、野心的な内容が求められます。
野心的であることは大切ですが、まったく手が届かない目標では人を動かせません。努力すれば到達できるレベルの挑戦が理想です。達成不可能な目標はビジョンではなく、空想にすぎません。
ビジョンステートメントは、ミッションと目標をつなぐものであり、それ自体が具体的な目標ではありません。もし内容が具体的すぎると感じたら、視野を広げてスコープを大きくしましょう。
ビジョンのすべてを一文に詰め込む必要はありません。ステークホルダーにとって最も重要で共感を得やすいアイデアを厳選してください。企業の使命と目的に直結する理想像に焦点を当てることが効果的です。
優れたビジョンステートメントは、数行の文章を書くだけで完成するものではありません。真に人を動かすステートメントを作るには、体系的なプロセスが必要です。以下の 7 ステップで進めましょう。
ビジョンステートメントは企業全体を代表するものです。共同創業者、経営幹部、シニアメンバーなど、策定に携わるべき人物をリストアップしましょう。組織のさまざまな部門からリーダーを集め、チームで協力して策定することが成功の鍵です。
リーダー層が策定段階から関わることで、ビジョンへの当事者意識が生まれ、日常業務やチームへの浸透がスムーズになります。
次に、ビジョンステートメントの「読み手」となるステークホルダーもリストにまとめます。実在の人物だけでなくペルソナでも構いません。
業界によってリストの長さは異なりますが、顧客だけでなくすべてのステークホルダーを考慮することが重要です。
最終的には簡潔な文章にまとめますが、その過程では「単語バンク」があると執筆が格段にスムーズになります。社内ステークホルダーとブレインストーミングを行い、キーワードを洗い出しましょう。
キーワードは以下のカテゴリに分類すると網羅性が高まります。
自社の製品やサービス
ミッションとバリュー
企業の目標と取り組み
長期的な戦略計画
企業、製品、チーム、コミュニティ、理想の未来を表す形容詞 (例: 革新的、持続可能、信頼性の高い)
企業の行動様式を表す副詞 (例: 柔軟に、協力的に、大胆に)
キーワードリストに加えて、以下の問いについてもチームで議論しましょう。なお、個人のビジョンステートメントと企業のビジョンステートメントは別物です。個人の目標と企業の理想を混同しないよう、意識して切り分けてください。
私たちの組織の存在意義は何か?
企業の強みは何か?
私たちのバリューは何か?
なぜ今取り組んでいることが重要なのか?
企業としてどのような変化を生み出したいか?
組織文化の理想像は?
最も野心的な目標は?
企業として世界にどのような影響を与えたいか?
すべてが計画通りに進んだとき、世界はどう変わるか?
ブレインストーミングが終わると、大量のアイデアが手元に残ります。数日間寝かせてから、新鮮な目で見直しましょう。
ビジョンステートメント策定チームで集まり、書き出した内容をレビューします。最も重要なアイデアやフレーズをハイライトし、不要なものを除外してください。除外した内容も、バリュー策定やロードマップ、事業計画など他の文書で活用できます。
ステップ 4 で厳選したキーワード、フレーズ、アイデアを使って、まずは長めの文章としてビジョンを書き出します。企業の優先事項に沿った論理的な流れを意識してください。
この段階では長さを気にする必要はありません。まず書き出してから編集する方が、後から内容を足すよりはるかに効率的です。ビジョンのすべての要素を網羅することに集中しましょう。
編集作業に入る前に、書き上げたビジョン文を俯瞰的に見直します。ここでも数日間寝かせてから戻ると効果的です。あいまいな表現がないかも確認してください。複数の解釈が可能な表現は、ビジョン全体の意味を変えてしまう恐れがあります。
レビュー時に確認すべきポイントは以下の通りです。
十分に野心的か? 到達すべきゴールではなく、常に追い求める理想像になっているか。
野心的すぎないか? 理想と非現実のバランスが取れているか。
組織を正確に反映しているか? 策定に関わっていない社内メンバーにも読んでもらい、フィードバックを得る。
わかりやすいか? 社外の人に読んでもらい、一般的な読者にも伝わるか確認する。
フィードバックを反映したら、長文のビジョンを簡潔なステートメントに凝縮します。フィードバックを重ねるうちに、自然と文量が減っていくことも多いです。バズワードや業界用語は避け、誰にでも伝わる平易な言葉を使いましょう。
短縮のコツは以下の 3 つです。
不要な要素を削る: 時間を置いてから読み直すと、最初ほど重要に感じなくなるフレーズが見つかります。インパクトの弱い部分は思い切って削除しましょう。
短い表現に置き換える: 複数の単語で表現しているものを、一語で言い換えられないか検討します。
フレーズ単位で磨く: 文章をフレーズに分解し、それぞれをより短く言い換えられないか検討します。
完成したら、ステークホルダーに最終確認を依頼し、仕上げの微調整を行います。
事業戦略の無料テンプレートビジョンステートメントの策定は、特に初めての場合は難しく感じるものです。行き詰まったときは、著名な企業の事例からヒントを得ましょう。
すべての企業がミッションとビジョンを別々に掲げているわけではありません。一つの目的宣言にまとめたり、「私たちについて」などの見出しで包括的に示すケースもあります。ここでは、ミッションとビジョンの両方を公開している企業の事例を紹介します。
ミッション: 公共の利益のために行動し、公正で質の高い番組やサービスの提供を通じて、すべての視聴者に情報、教育、エンターテインメントを届ける。(BBC 公式サイト)
ビジョン: 世界で最もクリエイティブな企業になること。
ミッション: デザイン性と機能性を兼ね備えた家具を手ごろな価格で幅広く提供する。(IKEA 公式サイト)
ビジョン: 多くの人々の日常生活をより豊かにすること。
ミッション: フレンドリーで信頼性が高く、低価格な航空サービスを通じて、人々を大切なものとつなげる。(Southwest 公式サイト)
ビジョン: 世界で最も愛され、最も利用され、最も収益性の高い航空会社になること。
ミッション: 世界最高の遊びとエンターテインメント体験を創造する。(Hasbro 公式サイト)
ビジョン: すべての子どもたち、ファン、そして家族にとって、よりよい世界をつくること。
ミッション: 世界中の情報を整理し、誰もがアクセスできて有益なものにする。(Google 公式サイト)
ビジョン: できるだけ多くの人々の生活を大きく向上させること。
ミッション: 「もっといいクルマ」「いい町・いい社会」の実現を目指し、モビリティカンパニーとして人々の暮らしを支える。(トヨタ自動車 公式サイト)
ビジョン: 可動性 (モビリティ) を社会の可能性に変え、すべての人に移動の自由と楽しさを届ける世界をつくること。
ミッション: クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。(ソニーグループ 公式サイト)
ビジョン: 人に近づく。感動の最前線にいること。
ミッション: 本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に良い服を着る喜びと幸せを届ける。(ファーストリテイリング 公式サイト)
ビジョン: 服を変え、常識を変え、世界を変えていく。
事業戦略の無料テンプレートLVMH グループ傘下のビューティブランド KENDO は、複数ブランドの運営において組織全体のビジョンと各チームの業務を結びつけることに課題を感じていました。ワークマネジメントツールを導入した結果、87 日分の作業時間を削減し、プロジェクトの可視性と責任の所在が明確になりました。
組織のビジョンを日々の業務に落とし込むことで、チーム間の連携が大幅に改善された事例です。
記帳代行・人事サービスを提供する Stride は、企業ビジョンに基づいたサービス品質の向上を目指し、業務プロセスを見直しました。その結果、月あたり 50 時間の会議時間を削減し、クライアントの継続率も向上しました。
明確なビジョンのもとで業務を標準化することが、組織の成長と顧客満足度の向上につながることを示す好例です。
ビジョンステートメントは一度作って終わりではなく、企業の成長とともに進化する生きた文書です。年に一度は見直し、現在の企業の方向性や理想像と合っているか確認しましょう。
ビジョンステートメントが完成したら、次はそれを日常業務に落とし込むことが大切です。ビジョンボードを使えば、目標を視覚化し、チーム全員の認識を揃えることができます。
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